REPORT
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ポートランドチームとの再会
から見えた、有田川の現在地
田殿保育所跡にオープンしたGolden Riverにて
2018年の冬も深まる12月、
久しぶりに有田川町を再訪したポートランドチームを迎え、
心温まる報告パーティーが開かれました。
場所は、田殿保育所跡の一角に完成した
クラフトビールが楽しめるカフェバー「Golden River」。
集まったのは、AGWのメンバーや地域で活躍するプレーヤーたち、
そして有田川町のまちづくりに関心を持つ他地域の人たち。

各々の近況を報告し合ったり、有田川町の未来について意見交換したりと
久々に会った仲間同士がビール片手に語り合った、
交流の様子をレポートします。

生まれ変わったあの場所で、ひさしぶりの再会

これまで幾度となくワークショップを重ね、町の未来を見すえたリノベーションが計画されてきた田殿保育所跡。元保育所としての面影と物語を残しつつ、施設全体がまちのリビングルーム「THE LIVING ROOM」へと生まれ変わりました。その入居者第一弾として、クラフトビールが飲めるカフェバー「Golden River」が誕生しています。

Golden Riverがオープンしたのは、2018年の8月。国内そしてポートランドをはじめ世界中のクラフトビールが飲める本格的なタップルームになりました。有田川町とつながりのある厳選されたポートランドのクラフト雑貨が店内で買えたり、カフェメニューも充実しているとあって、昼夜賑わっています。

そんなGolden Riverに、ポートランドチームが久しぶりにやってくる!ということで、有田川町の人たち、そして有田川町のまちづくりに関心を持つ人たちが続々と集まりました。

 

まずはこれまでのあらすじから

ポートランドチームとの久しぶりの再会を喜ぶ夜は、これまでの有田川町の歩みを報告するところから始まりました。

「消滅可能性都市」にリストアップされた有田川町。2010年から30年間で若年女性が半分以上減り、結果として子どもが生まれず人口が減り続けていくという未来。コミュニティの縮小をどう緩やかに描けるだろうか、希望が持てる町の未来をどうデザインをしていけばいいんだろう? ポートランドとの連携が始まった最初のころは、自分たちの町をどうしていきたいかをひたすらにディスカッションし、「暮らして楽しいまち」になる有田川町を思い描いていきました。

またこの頃、「有田川町をよくしたい」町民、役場の人、移住者など若手有志が集まり、まちづくりチーム「AGW(Keep Aridagawa Weird)」を結成。さらに「女子会」をテーマにトーク会を開催したのをきっかけに「有田川町女子会 UP GIRLS」も誕生し、まちづくりの輪が広がっていきました。

 

田殿保育所プロジェクトのはじまり

20163月をもって閉所を迎えた田殿保育所。その田殿保育所跡を地方創生の実践としてリノベーションしようというプロジェクトが動き出しました。ポートランド市開発局(当時)の山崎満広さんとともに、建築設計のPropel Studio、ランドスケープデザインのPLACEといった、いずれもポートランドの都市デザインに関わるプロフェッショナルが担当します。

このポートランドチームと共に、まちづくりチームAGWや役場職員が、建物の周辺地図や図面とにらめっこしながら、「ここでどういうアクティビティができると自分たちの町が楽しくなるのか?」「またここに来たいと思えるようにするには?」などアイデアを出していき、それを建築チームが描くというプロセスを何度も何度も行っていきました。

でも結局意見を出しているのは若年層ばかり。地域にはもっといろいろな年代の人が住んでいる。その人たちの声を聞くには? みんなにとっていい場所にしていくには? 近所の人をどうやって巻き込んでいくか、それが課題でした。

 

みんなにとって来たい場所になるために。
ありがとうイベントの開催

AGWのみんなが夜な夜な集まり、地域の人の声を拾い上げるために考えた企画。それが、閉所を迎えた田殿保育所で「ありがとうイベント」を2日間開催することでした。閉所から10日後に開催されたこのイベントには、のべ1000人のご近所さんが参加し、それぞれの思い出を胸に田殿保育所との別れを惜しんでいました。

ご近所さんや地域の方に加えて、田殿保育所に関わった卒業生や先生、園長さんまで幅広い年代の「地域の皆さん」が参加したこのイベントで、田殿保育所がどのような場になればまたそこに集いたくなるかをアンケート。パン屋さん、コーヒーショップ、DIY教室…など、地域の皆さんのリアルな声を集めることができました。オープンでフレンドリーな交流を日常的に持ちたいというニーズがコミュニティにあることが見えてきたのです。

AGWのメンバー・楠部睦美さんは「本当にできるか不安なメンバーが多い中、このイベントをやりきれたことはAGWとして大きな自信になった」と振り返っていました。

 

地域の人との距離が縮まるアイデア

最後のワークショップでは、「では実際に近所の人たちをどうやって巻き込むか」を話し合いました。田殿保育所が建っている敷地はもともとお寺の参道だったそうで、ご近所の人からは廃園後は建物を取り壊して更地にしてほしいという意見もありました。

そんな気持ちも尊重しながら、もう一度、みんなで地域のコミュニティの場所にするのに納得してもらえる具体的な提案を作りたい。ポートランドチームから提案されたアイデアのひとつが「保育所の建物のお寺側の壁の一部を取り除く」というものでした。そうすることでお寺の山門への見通しがよくなり、人も歩いて通れるようになります。さっそくお寺と地域の皆さんに提案し、オッケーをもらいました。地域の人たちとの距離が縮まったアイデアでした。

ポートランドチームから

報告の後、ポートランドチームからは「有田川町に来ると、毎回新しいものが生まれていて、とても良いインスピレーションがもらえる。自分たちの中でとても特別な場所だと思っている」というコメント。また、駆けつけた山崎満広さんからも「これだけの人材が集まっていて、これだけ実際に行動に移せているのは日本の中でもトップクラス。4年ちょっと前に描いたことが少しずつ実現されている。誇りをもってみんなで発信していき、もっともっと盛り上げていってほしい」と力強いメッセージをもらいました。

 

これから動き出す、大きなプロジェクトとAGWの活動

人の心を動かし、町を動かす有田川町の人たちの情熱。その情熱がまた新たに人を動かしました。ポートランドから2人、県外から2人の計4人の移住者の若者を中心とした、クラフトビール醸造のブルワリーをつくるプロジェクトがすでに始まっています。

有田川町を自分たちで「暮らして楽しいまち」にするために、あったらいいもの。みんなが集いたくなる場、ブルワリー、ゲストハウス、パン屋さん、スケートパークなどなど…。発想が尽きることはありません。この4年間を動画や当事者たちの話で振り返るなかで、会場にいるみんなが一体となって懐かしみ、拍手し、「有田川町を楽しい町にしたい」と真剣に、情熱的に、話し合う姿が印象的でした。

この、まちのリビングルームとそこに集うAGWメンバーを中心として、この次にはどんなアイデアやプロジェクトが生み出されるのか。有田川町の未来が楽しみでなりません。

有田川2040、第二章が始まります。