REPORT
19
8千キロ離れた2つのまちに
生まれた、ゆるやかで強いつながり
クロストーク・オン・有田川<3>
話題は有田川町の話からさらに一歩進み、
山崎さんから見たアメリカと日本の違いの話、
そして日本の未来の話へ。

3回シリーズとなった有田川とポートランドをめぐる対談、
最終話となる<その3>をお届けします。

その2の続きです>


ポートランドと有田川を通して見る
「これから目指したい未来」

有井 僕は、間違いなくミツさんの存在があったから、いわゆるポートランド的な価値観がここ5年で日本に根付いたと思うんだよね。「ポートランド」っていう言葉がうまく合言葉になって、結局僕らが目指したい未来ってこういうことだよねって、わかりやすくなった。

山崎 あー、そうかもしれないね。

有井 それをミツさんという存在を通していろんな人たちが知ることができたのは、すごいインパクトになったと思う。

山崎 本出したじゃない? そのあと有田川のきびドームで講演会をやったんだけど、定員を超えて400人近く集まったんだよね。これは僕がすごいんじゃなくて、情報とかインパクトとかインスピレーションをみんなが欲してるってとこがすごい。

有井 そうそう。

 

山崎 あと、本を販売させていただいたときに、ありがたいことにたくさん売れたの。これはそれだけみんなが「住みたいまちを自分たちでつくる」という考え方を理解してくれて、ポートランドから発信される情報を追っかけてくれているってのがわかったので、それがありがたかった。おかげさまでトータルで1万5千冊くらい売れて。

有井 すごい!

山崎 ってことは1万5千人の人が読んだ可能性があるわけじゃないですか。途中で寝ちゃってるかもしれないけど(笑)。そのことの方が、僕がいろんなとこで講演するよりもインパクトが強いよね。あの本は、ポートランドのファイナンスとか条例とか、コミュニティの作り方とか、結構いろいろ載っていて内容が濃いんだよね。だからわりとこの本を出したあたりから、ポートランドポートランドっていう表面的な感じから、ちゃんとワークショップをやりたいとか条例を決めたいとか戦略を決めたいとか、地に足のついた声が全国各地から上がってくるようになったんだよね。

有田川のみんなにエールを

有井 最後に。AGWのメンバー含めて有田川のまちづくりに取り組む皆さんへ、そしてポートランドのような持続可能なまちづくりを目指す人たちへのエールをください。

山崎 うーん、そうだね。日本のやり方として、何でも丁寧にやるところがある。アメリカなんかはラフでもどんどん進めるっていうほうが得意じゃないですか。日本人が、とりあえずやってみよう!ってうまくいきそうなことを突き詰めていって実行したら、どうせ丁寧にやっちゃうんだと僕は思うんですよ。

有井 確かにそうかも。ゼロからイチを作るよりも、だれかがスタートしたイチを魔改造する方が得意な人が多いかも。

山崎 とりあえずやってみようってできない人がいっぱいいる。その問題は能力じゃなくて組織にあるんじゃないかな。社会のプレッシャーがやっぱりあって。

有井 確かに。

山崎 反骨精神を持って何かを変えよう、変えるなら俺から変わるんだという人が出てくると、もっと社会が流動的になるんじゃないかと思うんですよ。組織があるからリーダーじゃなくて、フォロワーがいるからでもなくて、自分で自分を引っ張っていくってことをリスクを取ってやるようになると、新しい景色が見えてくる。その点、この有田川のプロジェクトは、半信半疑なところから実行して、ここまでで出来ちゃってるからすごいよね。メンバーも年齢の幅が広くて調和が取れてるし。

有井 そうだね。実行できたことがすごい。

山崎 アメリカ、特にポートランドでは、なんか面白いことやってたら、周りの人が「クールじゃん」「やったらいいよ」って言ってくれる。有田川のこのプロジェクトも、このままみんなで自ら盛り上がってく努力を続けていくことが重要だと思う。

有井 この有田川町の地方創生プロジェクトのタイトルは「有田川という未来」。ポートランドに多くの人が惹きつけられるのは、そこに目指したい未来があるからだと思うんです。有田川も「日本の未来」の代名詞として語られるようなまちになってほしい。そのためにもミツさんのいう通り、個人個人で自分たちのまちをもっと毎日が楽しいまち、もっと個性的なまちにするために何ができるかっていうことを、みんなが考えられるようになっていきたいね。まだまだやれることがある。これまでの繋がりを活かしていろんな面白いことやっていきましょう。海を越えて。

 


ポートランドのまちづくりプロセスを日本でいち早く取り入れ、住民主体で持続可能なまちへ変えていこうとしている有田川町。「暮らして楽しいまちを自分たちでつくる」道の途中でポートランドと有田川の人たちの間に生まれたのは、まさに友人同士のような繋がりでした。

私たちの未来へのヒントは、きっとこんな対話のなかから見つかるんだろう、そう心強く思える対談となりました。山崎さん、ありがとうございました!

<終わり>