REPORT
18
8千キロ離れた2つのまちに
生まれた、ゆるやかで強いつながり
クロストーク・オン・有田川<2>
久しぶりの再会を果たした山崎さんと有井。

クラフトビールを片手に会話は弾み、
話題は有田川が元々持っていたポテンシャルの話へ。

ポートランドのうまくいっている部分をただ真似すれば
どんな地域でも成果を出せるのか?
それとも、有田川だからこその何かがあるのでしょうか。

有田川とポートランドをめぐる対談<その2>です。

その1の続きです>


有田川とポートランドで起きたこと

山崎 それから、チーム有田川2040が立ち上がって、ワークショップをやったり、有田川女子会(UP GIRLS)をやったりしたね。

有井 そういうことを有田川がやって見せたことによって、いろんな地域が自治体ベースでポートランドに対して積極的に動いたよね、やっていいんだって。多分これまで、いわゆる都会的な地域はポートランドのかっこいい出来上がったものに注目していたんだけど、有田川が地域住民とのコミュニケーションプロセスを取り入れることから入ったときに、そういうことか!って反応が結構いろんなとこからあったんだよね。

山崎 イベントに終わらない継続的な取り組みとして入っていったしね。そういえば2017年にはポートランドで「POP UP Aridagawa」もやったよね。

有井 やったねぇ!ポートランドチームのメンバーで何度も有田川に訪れてくれたPLACEのギャラリーを貸してもらって。有田川の山椒を使ったビールを向こうの有名なブルワリー(クラフトビール醸造所)に作ってもらったり、和食の料理人に有田川の胡椒で料理を作って出してもらったり。そういうのはポートランドのみんなからの提案だったんですよ。有田川のことを知りたいって。

山崎 そうだったねぇ。

有井 なんでみんな興味を持ってくれたかっていうと、ポートランドがやってる「住民の意見を大切にして、みんなで自分たちの地域をよくしていこうとする取り組み」を取り入れて頑張ってるまちが日本にあるってことを、ポートランドのみんなにも知ってもらいたいっていうのが根底にあったみたいで。いわゆる見た目のおしゃれな部分だけじゃなくてね。

山崎 形式的な姉妹都市とかじゃなくて、本質的にお互い好き合って興味を持ってやれてるから面白いよね。Propel Studioルーカスもニックも、毎年1、2回は有田川に来るようになってるし。有田川の行政の予算は2年ですでに終わってるのに、そういう人間らしい繋がりが生きてるのがいいよね。

 

なぜ有田川でうまくいったのか

有井 和歌山市ではなく有田川町でってなったのは、やっぱり農業とか一次産業との近さっていうのが大きいよね。端っこの産業ではなくてメインのものとして、まちの人たちが一次産業を受け入れているところ。ポートランドって農業とか食に関わることに携わる人たちのことをリスペクトしているじゃないですか。そういうの大事だなって。

山崎 結構高い位にいるね。ライフスタイルの中で「食」ってでかいからね。ポートランドの人は、食にうるさい。ちゃんとそれが自分たちのライフスタイルの重要な一部だって認識があるんだよね。だからファーマーズマーケット行ってもファーマーと話をするのが楽しみなんですよ。もちろんものを買うこともですけど。「最近は何が旬なの」とか「出来がいいね」とか会話を楽しみながら買い物をしてる。

有井 あと、このプロジェクトが順調に進んでる要因の一つは、有田川町の特徴的な社会教育。いわゆる学校教育ではない、学校外教育のプログラムの豊富さっていうのがあると思う。毎年中学生を50人オーストラリアに派遣するプログラムを持ってたり。

山崎 知らなかった!

有井 多分そこが、「人と違っていい」とか「ユニークでいい」とかっていう多様性を認めることができている一つの要因じゃないかなって思っていて。ALECみたいなものがあるっていうのもそうだし。図書館でコーヒー飲めていいじゃんっていう価値観の公共施設が、10年以上前からこの田舎にあるわけだしね。

山崎 なるほど、いい意味でちょっと「余計なこと」やってるんだ。

有井 有田川の動きを見て、うちのまちでもってなったときには、住民との対話から始めるのが一番大事だよね。みんなが何を求めてるのかってことを、声の大きい人からだけじゃなく声の小さい人からもちゃんと聞いて集めるってことを丁寧にやって、その上でこの場所をどういうふうにまちに開くかってことを決めていかないといけない。未来への投資としては学校教育だけでない社会教育がとても大事だと思う。いろんな地域と子どもたちの関わりを作っていったら、それは必ず10年20年後に生きてくる。結局なんで若くて面白い行政職員が有田川にいるのかなって思ったときに、そういう経験で自分のまちにアイデンティティを培った子たちが結果として帰ってきてたり残ってるからなんだろうね。若い世代の子たちって、少し上の先輩世代を通して自分のまちの未来を見るじゃないですか。上の世代の人たちがうちのまちはダメだって言ってたら、下の世代の人たちは必ず逃げる。

山崎 確かにそうだよね。

 


その3に続きます>